外国語学習をする人にとって、第二言語習得の知識を知ることはとても大切です。第二言語の発達順序を理解すれば、自身がどの段階にいるのか、次の段階に進むためには何をする必要があるのか、どの点でつまづきやすいのかを見極めることができ、効率的な学習をすることができます。
否定表現の習得にも規則性が存在する
先日の投稿では第一言語(母語)学習者、第二言語学習者共に文法習得(肯定の表現)に規則性があるという内容を載せました。否定の表現においても、Wode(1981)が第一言語学習者が共通した習得段階を経ることを明らかにしました。
否定表現における規則性は?
Schumann(1979)とWode(1979)が第二言語として英語を学ぶスペイン語とドイツ語話者を研究しました。第二言語学習における否定表現の規則性は以下のようになります。
- 第1段階
”No bicycle.”、”I no like it.”、”Not my friend”のように否定表現の”no”か”not”を動詞もしくは否定される要素の前に置く傾向がある。加えて、スペイン語やイタリア語では文の頭に”no”をつけて否定を表すため、それらの母語話者は他の学習者よりもこの段階を長く続ける傾向があり、次の段階に進んだ時であっても、うっかり”no”を使用してしまうことがある。
- 第2段階
”no”と”not”の代わりに”don’t”を使い始めるようになるが、”He don’t like it.”や”I don’t can sing.”のように、自制、人称、数に係りなく使われる場合や、canやshouldの前に使われるケースも見られる。
- 第3段階
”You can not go there.”、”He was not happy.”、”She don’t like rice.”というように補助動詞are、is、canの後ろに否定辞をつけ始めるが、まだ十分にdon’tの使い方は理解していない。また、ドイツ語では否定辞を背後につけるので、この段階において、”They come not [to] home.”という文を算出することもあった。
- 第4段階
”It doesn’t work.”、”We didn’t have support.”、”I didn’t went there.”のように、doに自制、人称、数のマーカーがついて大部分の中間言語が目標言語の文に近づくが、補助動詞と動詞の両方に自制、人称、数をマークし続ける学習者もいる。
第一言語による影響は?
第一言語学習、第二言語学習どちらの習得段階においても習得の順序があり、それぞれに共通性が見られるとのことです。しかし、第二言語学習においては、第一言語と類似性をもった発達段階が存在した場合、学習の進度が遅くなるなど、否定辞を本来使用する箇所ではない部分で使用してしまうなど、第一言語の影響が見られる場面も存在しました。さらに、Klein & Perdue(1993)によると、第一言語、第二言語の組み合わせによらず、学習者の中間言語のパターンは本質な部分が似ているといいます。その中でも学習の初期段階に似ている点が多く見られたそうです。また、第二言語学習者がある程度の段階に達したときに、第一言語との類似性を感じると、その段階をしばらく脱することができず、発達順序に補助段階を加えることもあったといいます。また、目標言語のある項目が第一言語と隔たりが大きく、非常に異なっていると感じると、それを使用することを回避しようとする行動が起こることもあるとSchachter(1974)はいいます。このように、第一言語が第二言語学習に影響を及ぼす例も少なからず見られます。
学習者自身で第二言語学習の特性を把握しておくことは有効
以上のように、第二言語学習者の言語発達には多くの共通した特徴が見られます。そこで、外国語学習者が第二言語の習得順序についての知識を理解することで、自分が現在何を習得できており、どの発達段階にいるのかといったことを把握することができます。加えて、第二言語学習には学習者の第一言語による影響も存在するため、学習中の言語と自身の第一言語との類似点や異なる点を把握することによって、自身の侵しやすいミスや停滞のパターンを事前に把握し、その点に配慮した学習を行うことができます。それにより、効率の良い学習を行うことができ、第二言語獲得へと繋がります。
参考資料
Lightbown, P.M. and Spada, N. (2013). How Languages are Learned: 4th ed. Oxford University Press