子供は「言語学習の天才」と言われることがあります。確かに、大人と比べて子供の言語学習スピードは凄まじく、子どもが母語を習得する時には生まれてからあっという間に言葉が話せるようになります。なぜ子供はあんなにも早く言語を獲得できるのでしょうか。
人間は何も持たないで生まれてくる?
子供は生まれてから言葉に関する訓練を受けた訳でもないのに、脳に特別な障害をもたない限り全員が2~3歳になる頃には、ほぼ完璧な文法で言葉を操ります。経験論の父とも呼ばれるジョン・ロックは人間は何ももたない白紙の状態で生まれてくると考えました。言語に関しても同じで生まれてすぐの赤ん坊は言語能力がゼロの状態であり、両親や周囲の人との会話を学習して言語能力を習得すると考えました。しかし、子供が学習した文法の中には正しくない文法や不完全な文法も混ざっているはずなのに、2~3年もの期間でほぼ完璧な文法を習得するという点には疑問が残ります。
言語の知識を持って生まれてくる?
人間は生まれた時から言語知識を持っていると考える立場の人々は経験論に反対する言語生得論という理論を提唱しました。ノーム・チョムスキーは全ての人間は全ての言語に共通して存在するルール(普遍文法/UG : Universal Grammar )をもっており、それを基にして各言語にダイヤルを合わせて母語を獲得すると考えました。 また、子供の頃は、ダイヤルは様々な言語に対して容易に調整できるのですが、ある程度の年齢を過ぎるとダイヤルの調整能力が鈍ってくるとも考えました。それが一般に臨界期と呼ばれるものです。しかし、この臨界期というものはまだ仮説の段階であり、臨界期が本当に存在するかどうかという事自体まだ証明されていません。
どちらが正しい?
今回は子どもが母語を学ぶ理論として考えられている2つの説を紹介しました。現在では、経験論よりも生得論の方が有力な説であると言われています。しかし、どちらが正しいのかやハッキリと証明されていません。ひょっとすると紹介した2つの説以外の理由があるかもしれません。人間の言語習得にはまだまだ定かではない点が数多く存在し、日々研究が続けられています。